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変化はいずれ訪れる。
「カーテン・フォール」
(アンコールはありません。やり直しはつまらないでしょ?)











































「ノエル、誰か来たよ。」
沈みかけた太陽は、いつも以上に赤々と燃えていた。
橙が村を染めると、子どもたちがそれぞれ帰路につき始める。
そんな中で、ナナはあまり興味がなさそうに呟いた。
頬杖をついて望遠鏡をくるくると回している。
「こんな時期に…?誰だろう」
ナナの隣に立ち、この時期には珍しい来訪者の姿をとらえた。
小さめの望遠鏡は、見慣れない軍服を着た少年の姿を映している。
「…っ。」
軍服は見慣れない。
けれど、それを身にまとう少年は知っている。
焦げ茶色の短髪に翡翠の瞳。
忘れもしない、吸い込まれそうな瞳の色。
「ジャン…ッ!」

転びそうな勢いで階段を駆け降りた。
少し肌寒い追い風がふわりと背中を押す。
息は乱れていたが、それと同時に気分が高揚していた。
激しく波打つ心臓の音が、今にも聞こえそうな気がする。
この感情は、懐かしさなのか、喜びなのか。
そんなことはどうでもよくて。
ただ本能のままに走っていた。
「はぁっ…はぁ…」
だんっ、と一気に階段を飛び降りると、当然のようにバランスを崩した。
「おっ…と…とぉ!?」
いつもは絶対失敗しないのだが、今日は胸が高鳴っていたせいか、着地を失敗してしまう。
大きく体勢が崩れ、後ろから面倒くさそうについてきたナナもさすがに悲鳴を上げた。
「いやっ…!」
自分の注意散漫さを反省しながらも、これからの痛みに備える。
受け身くらいはできるはずだ。
そんなことを悠長に考えていた。
「…ん?」
だが、いつまでたっても予想していた痛みは走らない。
代わりに、妙な浮遊感に襲われる。
「ん…?んんん?」
ぶらぶらと、情けなく自分の両足は宙に浮いていた。
隣には体格のいい男がいて、猫の首根っこをつかむような感じで僕をつかんでいる。
鍛えあげられた腕は太く、小柄な僕を持ち上げてもまるで平気そうだ。
「ノエルッ、大丈夫…?」
普段あまり僕の心配などしてくれないナナだが、栗色の髪を揺らしながら走って来てくれた。
ナナの存在に気づき、男がゆっくりと僕を下ろす。
ありがとうございます、と戸惑いながらもお辞儀をすると、いえ。と少し素っ気なく返された。
「私は頼まれただけですから、お礼なら奴に。」
くいっ、と、顎で示された方向に目を向けると、楽しそうに笑う少年がいた。
その姿は今まさに追いかけてきた人のもので、焦げ茶色の髪はレンズ越しに見るよりずっと明るい。
ただ、翡翠の瞳は、どこから見ても透き通っていた。
「ただいまー、ノエル。」
少年の名前はジャン・ローレンス。
2年間待ち続けた、僕の世界。



「ジャンがヘプバーン家に捨てられたのは14年前だ。」
クラウスと名乗った男は、自分の半分ほどしかない小柄な自分を前に、戸惑いながら話し始めた。
生真面目だな、この人。
聞きながら、そんなことを思う。
ノエルとジャンは2人でどこかに行ってしまったので、クラウスと私は、はっきり言って暇だ。
お互い自己紹介も済ませたので、自然な流れでそれぞれの同僚の話になっていた。
クラウスの話によると、ジャンはノエルの幼馴染で、クラウスと共に軍で働いているらしい。
今は、そんなジャンが何故この村を出て行ったのか、という話を聞いている。
「当時3歳だったジャンは、訳も分からずただ両親が迎えに来てくれるのを待っていた。」
「そうでしょうね…」
無意識のうちに、両手に力が込められていた。
第一印象は能天気な少年、というイメージだったので、そんな辛い過去がジャンにあったのは意外だった。
勝手な印象を抱いてしまった自分が、なんだか恥ずかしくなってくる。
気が付けば、下をむいてしまっていた。
「…ジャンは、ただひたすら待ち続けたらしい。だが、そろそろ気が付いてきた。もう自分の帰る場所は無くなってしまった、ということに。」
うつむいてしまった私を気遣ってか、クラウスの声色が穏やかになった。
だが、3歳でありながらじわじわと絶望を知ったジャンを思うと、クラウスの目を見ることは出来ない。
ただ静かにクラウスの話に耳を傾けた。
「ジャンは、諦めた。泣くこともせず、ただ座り込んでしまったらしい。」
「…でも、そこで登場したのが幼いうちの同僚くん?」
「そういうことだ。」
当時2歳だったノエルは、窓の外に座り込んだ男の子を見つけて泣き出したらしい。
あまりに泣きやまないものだから、当時のヘプバーン家当主は男の子を家の中に入れるよう女中に命じた。
こうして、二人の少年は出会ったらしい。
「その後、ヘプバーン家当主はノエルの付き人としてジャンを雇った。」
「なんだか、ありがちな話…」
「ああ、全くだ。出来すぎている。」
見かけによらず穏やかで誠実な性格のクラウスだが、この時は忌々しそうに顔をゆがめた。
誰かに対する明らかな嫌悪が表情からにじみ出ている。
「…これは、すべて仕組まれていたことだった。」



ジャンの母親は、とても美しい人だった。
そして、己の欲に素直な人。執念深く、まるで蛇のように。
ジャンの父親は誰だかわからない。
母親の隣にいる男の人はいつも違う人だったし、母親似のため、自分の容姿から父親の姿はわからない。
そんな、なんとなく空虚な世界の中で、ジャンはぼんやりと生きていた。
幼い自分には、何もかもが「よくわからない」こと。
ただ、理解できたことは
泣けば、怒鳴られ
笑えば、殴られ
静かにしていれば、何もされない、ということ。
ジャンは、何も話さず、何もせず
ただ不定期に与えられる食事をとることだけを、唯一の行動としていた。
「ばいばい、ジャン」
そんな、ぼんやりとした暮らしの中に、何か変化が起こった。
気が付けば知らない場所に連れていかれて、ばいばい、と告げられた。
ジャンは数回だけ、母の名前を呼んだ。
返事は、ない。
ぼんやりと、ぼんやりと。
霞む視界。
崩れていく、世界。

「…おどろいた。」
ジャンが虚ろな目を向けると、その女はうっすらと笑ったらしい。
焦げ茶の髪と、翡翠の瞳が印象的だった。
「おかしいなぁ、産んだ覚えはないんだけど…あはは、そっかぁ…。」
自分一人で納得し、満足そうにジャンの頭をなでる。
ひやりとした手の感触が、不快だった。
「ねぇ、君。あたしのヒマつぶしのために、ついてきてくれる?」
―そうやって、ジャンが連れてこられたのがヘプバーン家。
そこで、初めて僕と出会う。
初め、ジャンの待遇についてはかなり冷たいものだった。
部外者をいつまでも屋敷の中にいれていては、家の品格が下がるという者。
今すぐに帰らせるべきだという者。
子供を捨てた両親を徹底的に調べ、つき返すべきだと言う者。
屋敷内は混乱した。
そして、その混乱を鎮めたのが、その女だ。
「別に、いいじゃないですかぁー、メイドとしてこの屋敷で働けばいいんですよ。」
女の一言で、ジャンの運命が決まった。
ぼんやりとした世界に、差し込んだ僅かな光。
それからの屋敷での生活は、眩しいくらいに、楽しかった。
僕自身も、物心がついた時から一緒にいるジャンは、自分の一部のようなもので。
ジャンも僕も、お互いの事を知りすぎていた。
だから。

ジャンがどんな風に傷つくのかを、僕は痛いほどわかった。


「ノエル、ジャン、来なさい。」
ジャンと僕が父の部屋に呼ばれたのは、今から2年前のことだ。
普段は穏やかな父の顔は強張り、母の顔は衰弱しきっている。
「最近屋敷内で流れている、妙な噂は耳にしたか?」
どくり、と、不安定な心臓の音がした。
ジャンは平静を装っているが、わかる。
「ぼ、くが。旦那様と、翡翠の瞳の女中との、不出来の子だと。聞きました。」
そんな噂は、少し前に聞いていた。
が、あまりに馬鹿らしい噂だったので、特に気にもとめなかった。
ジャンも、僕も。
―けれど。
思えば、噂を耳にしたときすぐに、何らかの行動を起こすべきだった。
防衛線の張られていない今、攻撃されれば、塔は崩れる。
「…ジャン、ヘプバーン家は、今は衰退しているとはいえ、由緒正しい名家だ。」
「…はい。」
母が、涙を流した気がした。
父の声は、厳粛ではあるが、震えている。
「この、噂が、全くのでたらめであるという証拠がない限り―」
「…この屋敷―いや、この村には、いれません…ね。」
父の言葉の続きを、ジャンが紡げば、母の瞳から涙が溢れた。
父は、血がにじむほど拳を握りしめている。
この言葉を告げるのに、どれほどの羞恥と、悔しさを味わったのだろう。
母は、どれほどの不安と、悲しみを抱いたのだろう。
そして、ジャンは
「…では、僕は外へ。」
どれほどの、絶望が蘇ったのだろう。



「…それって―」
「ああ。馬鹿女のヒマつぶしってのは、ヘプバーン家を今まで以上に衰退させることだったんだよ」
自分の容姿にジャンが似ていたのをいいことに、自分の子だといいやがった。
吐き捨てるように、クラウスが言う。
クラウスの言葉に、何も返せなかった。
女は、自らで全くの嘘を流し、楽しんでいたのだ。
ヘプバーン家の人間と、ジャンの顔が苦痛で歪むのを。
ジャンがヘプバーン家を出ていくのを、悲痛な顔でジャンの帰りを待つノエルでさえも、楽しげに眺めていたのだ。

「最低…」
一言だけしか、出てこなかった。
あまりにも単純すぎる、一言。
人の不幸は蜜の味。
そんな言葉があるけれど、本当に蜜の味はするのか。
不幸とは、甘いのか。
沸々と、嫌悪感がこみ上げる。
クラウスの表情に浮かんだ嫌悪は、きっとこれと同じものだったろう。
理不尽すぎる、あまりにも。
「…でも。」
今、ジャンは此処にいる。
それも、軍人というきちんとした職について、クラウスという仲間も持って。
それ、は。
「ジャンの出生が、ヘプバーン家とは関係ないことがわかったの?」
期待を込めて、クラウスに尋ねた。
帰って来たということは、おそらく何か掴んだということ。
きっと、吉報だ。
「…それは、俺も知らない。」
ふっと、情けなくクラウスは笑った。
過去の事は聞いても、一番重要なことは教えてくれなかったらしい。
どうなるのかも分からないまま、クラウスは此処まで来た。
「…クラウスさんも、大変だったね。」
無意識に、頭をなでると、今度はさみしそうに笑う。
「俺は、ついて来ただけだから。」
「ううん、そんなことないよ。」
一人では絶望なんて抱えきれないよ、と笑うと、クラウスは少しだけ温かくほほ笑んだ。
大きな男が、こんな時は小さく見える。
「…なんにせよ、今頃どうなってるんだろうな。」
窓の外は、もう暗い。灰色の空は、次第に濃くなる。
一番星は、まだ出ていない。
「…それはもう、神のみぞ知る。だよ。」



「元気だったー?ノエル。」「あ、あぁ。うん。」久しぶりに見る焦げ茶の髪は、2年前と変わっていない。
翡翠の瞳も相変わらずで、宝石のような美しさがある。
思わず見惚れて、ジャンを見すぎた。
居心地が悪くなったのか、こんな場面で定番の「元気だった?」という言葉を使われてしまう。
しかも自分も律儀に答えるため、気まずい空気は壊れることがない。
しばらく、奇妙な沈黙が二人を包んだ。
聞きたいことは、山ほどあるのに。
もどかしさで、涙が出そうになる。
「ノエル、聞いて。」
そんな僕を見かねて、ジャンが先に話し始めた。
僕自身が、最も聞きたかったこと。
「僕の、出生だけど…」
「ちょ、ちょっとまって!!」
聞きたいのに、聞けない。
真相はわかっている。
僕の父は、ジャンの父ではない。
そして、あの女は、ジャンの母ではない。
二人の間で、それは確定していることだ。
けれど、証拠がなければ。
それがなければ、ジャンはこの村に居ることを許されない。
そう思うと、聞くのが怖かった。
自分の手が震えていることに気が付き、緊張しているのだとわかる。
すると、震える手がふわりと包まれた。
同じくらいの大きさの手が、柔らかく両手を包みこむ。
「落ち着いて。聞いて。」
語尾が延びるジャン独特の喋り方ではなく、稀に見る真剣な話し方だった。
僕の手を包みこむジャンの両手に、きゅっと力がこもる。
「僕の出生は―、不明だ。」
「…っ。」
息が、詰まった。
空気を吸い込む肺が、痛むような感覚。
息をするごとに、ずきずきと痛い。
「最新の技術で遺伝子を調査するためこの国の軍人になった。」
僕の金髪が、夜に浮かび上がる。
焦げ茶色のジャンの髪は、闇にとけこんでいた。
「だけど、この国の技術は遺伝子調査に関して遅れている。僕が生きているうちの調査は、不可能だ。」
ジャンが少しだけ、自虐的に笑った。
その間も、その両手は僕を包んだまま。
温かいのに、何か冷たい。
そんな、奇妙な感覚。
それはきっと、悲しいから。
もうこの村であえないと、確かな絶望をしったからだ。
「…でもね。ノエル。」何も言えない僕を下からのぞきこんで、ジャンは照れくさそうに笑った。
この笑顔は、なんだか懐かしい。
けれど、今の僕には不釣り合いだ。
あまりに、僕が後ろを向きすぎている。
前向きな笑顔は受け入れられない。
が、そんなことなお構いなしに、にかっと。ジャンは笑った。
「理由付きで、この村にいられる方法。見つけたー」

へらへらした、まの抜けた笑顔。
語尾がのびる、緊張感のない話し方。
いつもの、ジャン。
何故?

「僕って、軍人だからー」
「うん」
「ノエルたちを、守ってあげる。」

予想外の答えに、絶句した。
けれど、それは。

「またこの村に、帰ってくる…?」

村を守る軍人として、此処にいる許可が出たのなら
それはしきたりも世間体も関係なく、仕事として受け入れられる。
つまりまた、僕の隣は、君の姿で埋まることになるんだ。

「ただいま、ノエル!」
ジャンがありったけの声で叫んだ。
それは遠く風にのって
大男と少女の耳にも届く。

「おかえり、ジャン!」

突然失った僕の世界。
霞んだ世界の中で君を探した2年間。
手探りだったこの2年間の中で、僕は一人の少女と出会った。
クールで、無愛想だけど、思いやりのある可愛い奴。

君は、2年間必死にもがいて
一度は深い絶望を味わい、けれどまだ道を探した。
それはきっと、君の側に
一人の男がいたからできたことだと思う。
誠実で、まじめで、それでいて、誰よりも優しい、そんな人。

僕たちはこれから、また何度も絶望を味わう。
側にいれるというだけで、ジャンの問題は解決はなされていない。
きっと父は、ジャンに家の門をくぐらせないだろう。
けれど、一人より、二人。二人より、四人。
暇つぶしだと笑った女と、戦うのはこれからだ。
村の人間の噂など、それこそ不確かな事実。
父がジャンを認めないのなら、認めさせればいい。

そのための、戦闘準備。

「戦う準備は出来た?ノエル。」
「まぁ、普通かな。」
わざとらしくほほ笑むと、優しい微笑みが返される。
「まぁ、とりあえずは。」

お帰りなさい。

「カーテン・フォール」
(ひとまず僕を捨てた馬鹿親さがしから始めようか。)








あとがき。

はじめまして、梢です。
小説ぐだぐだですみません;
これ番外編から先に書いちゃったので、かなり読みにくい作品になってます;AHA☆←
番外編は続編みたいなもので、ノエルとジャンの復讐が始まります(笑)
まぁ、ただ単にジャンが堂々と村にいれるようになるため頑張るのが続編です。
もう一個の番外編はナナとクラウスさんの恋物語。
こっちを部誌にのっけようかと思ったんですが、あまりに乙女度が足りず、ラブコメなのにきゅんきゅん(死語)こない!!って感じになったのでやめました。
いつかHPとかにupできたらいいな、と思っています。
その時は超糖分高めになってますように。

ちなみにノエルとナナの仕事内容ですが、特に決まってません。
個人的には派遣社員のイメージです。
おいおい名家の長男!とか激しい突っ込みを頂いたことがありますが…
この世界で派遣社員はエリートっていう設定はダメですか、ダメですね←
まぁ、何でもやります☆いう軽いノリだと思います。
万屋ですねー、銀ちゃんだ!!(銀魂)

さて。
今回かなり完成度の低い作品になってしまったこと、深くお詫び申し上げます;
こんなにぐだぐだになってしまうとは私も予想外でした…
敗因はわかってます、続編からかいたことです←
今度はきちんとした順序をおって頑張りたいと思いますっ。
あと現代文勉強しないとな、文字と触れ合う時間を多くしよう。
まぁでも、はじめての部誌製作ということで不安要素盛り沢山だったんですが、結果的にはそれを乗り越えられてよかったです。
応援してくださった皆様、ありがとうございました♪
また来年も部誌出しますので、よろしくお願いしますっ。

ではでは。
ここまで読んでくださってありがとうございましたッ。

熊本高校漫画研究会梢「カーテン・フォール」

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